
年金受給額の調整:経過的加算とは
日本の年金制度は、長い歴史の中で幾度もの改正を繰り返しながら、今日の姿へと変化してきました。かつて、国民の老後の生活を支える年金制度の中心には、老齢厚生年金がありました。この老齢厚生年金は、加入者全員に一律に支給される定額部分と、加入期間中の収入に応じて支給額が決まる報酬比例部分の二階建て構造となっていました。
しかし、社会情勢の変化や少子高齢化の進展に伴い、年金制度の抜本的な改革が必要となりました。そして、すべての国民に基礎的な年金保障を提供することを目的として、老齢基礎年金が新たに導入されることになったのです。この老齢基礎年金の導入によって、従来の老齢厚生年金における定額部分の役割は見直され、新たな制度へと組み込まれていきました。
この大きな制度改革は、年金受給額にも影響を与えました。特に、60歳から65歳になるまでの間に受給を開始した場合と、65歳以降に受給を開始した場合とで、受給できる年金額に差が生じるケースが出てきたのです。これは、老齢厚生年金から老齢基礎年金への移行期における制度設計上の調整によるものでした。
このような状況の中で、年金受給者の生活の安定を図り、制度改革による不利益を緩和するために導入されたのが『経過的加算』です。経過的加算は、60歳から65歳までの間に年金を受給する場合に、本来受給できる年金額に一定額を加算することで、65歳以降に受給を開始した場合の年金額との差額を調整する仕組みとなっています。この経過的加算は、年金制度が大きく変化する中で、新旧制度の橋渡し役を担い、円滑な移行を支える重要な役割を果たしていると言えるでしょう。